・イカ墨とキリシタン料理
 石川県七尾市。能登半島の富山湾側の港町です。七尾湾は能登島を前にした天然の良港です。年間を通じて波も穏かで、往時には北前船の風待港として栄え、七尾湾は帆を立てた船の行き来で賑わいました。
ここ七尾市の小島町山の寺に法華宗楊柳山・本行寺という静かな佇まいのお寺があります。本行寺は、高山右近ゆかりの寺です。かつては加賀藩キリシタンたちの聖地であり、南蛮の進んだ学問や技術を伝授する施設でした。右近が技術者たちとともに高岡城の設計図を作成したのも本行寺においてであったと伝えられています。このお寺には今でも「右近谷」の名が残っており、そこはかつての修道院跡地と推定されています。また、茶室「きく亭」には「近日出舟仕り候、云々」とマニラ追放を間際に控えた高山右近が、細川忠興に宛て綴った書状の下書きが掛け軸となって保存されています。
七尾の町と七尾湾
さて、この本行寺には「アニマー(霊魂)祭」という年中行事があります。「アニマー祭」は毎年5月26日に前田家の重臣や信者たちによって密かに伝承されてきたキリシタンの祭りです。この祭りではお茶会が行われ、また御膳(南蛮正月膳ともいう)の振舞いがあります。この御膳は本行寺に代々伝わる「耳書き帳」という文献と口伝とをもとに現在の御住職・小崎學圓さんが再現された「キリシタン料理」です。

御膳の内容
  大唐米(赤米) 葡萄酒 神団子(ジンダゴ)汁
  カルカン ひろうず 柿入り酢の物
  イカの墨煮  からいもせん  
このお料理を前田利家・利長親子や高山右近も召し上がったのでしょうか。キリシタン料理のなかに「イカの墨煮」があるのが注目されます。小崎住職によれば「元々日本人は黒い食べ物には拒絶反応をする民族です。ポルトガルやイスパニアの宣教師たちによって黒いイカ墨を食べる習慣がもたらされました。その習慣は今日わずかに能登と富山のいかの黒づくりに残されているのです。キリスト教の布教の拠点となった地に、イカ墨を食べる習慣があるのは日本だけではなく、世界的に見られる傾向です。」とのことでした。沖縄・長崎のイカ墨と富山の黒づくりを結びつけるキーワードは「キリシタン」だったようです。

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